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前橋地方裁判所 平成6年(わ)326号 判決

主文

被告人を懲役二〇年及び罰金五〇万円に処する。

未決勾留日数中一五〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

前橋地方検察庁に保管中の自動式けん銃一丁(前橋地方検察庁平成六年領第二九五号符号二〇)、回転式けん銃二丁(同領号符号二八及び三五)、自動小銃一一丁(同領第四六四号符号九、一二、一四、一六、一八、二一、二四、二七、三〇、三三及び三六)、小銃一丁(同領第四七六号符号一)、けん銃用実包一六六発(うち三〇発は分解又は試射済み、同領第二九五号符号二一、二三、二九、三一、三六、三八、四〇、四二、四六、四八及び五一、同領第四三六号符号一、八、一〇ないし一二)、覚せい剤粉末八袋(同領第四一三号符号三一)、覚せい剤粉末若干量(同領第四四五号符号一及び二)、塩酸ジアセチルモルヒネ一三袋(同領第四三五号符号二ないし四)及び大麻草一袋(同領第四四三号符号四)並びに群馬県太田警察署に保管中の乾燥大麻一三個(前橋地方検察庁平成六年領第四一三号符号三三ないし三五号)及びライフル銃用実包九八八発(うち六一発は分解又は試射済み、同領第四六四号符号三、四、四六、四九、五二、五五、五八、六一、六四、六七及び七〇)を没収する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、

第一  法定の除外事由がないのに、平成六年五月二〇日ころ、東京都新宿区歌舞伎町〈番地略〉所在のキャッスルホテル内において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンを含有する結晶粉末約〇・〇一五グラムの水溶液約〇・二五立方センチメートルを自己の右腕部に注射し、もって、覚せい剤を使用し、

第二  みだりに、同月二六日ころ、埼玉県大里郡〈番地略〉所在の内妻I方において、大麻草約一・三七グラム(前橋地方検察庁に保管中の平成六年領第四四三号符号四はその一部)及び覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶粉末約〇・四九八グラム(前橋地方検察庁に保管中の平成六年領第四四五号符号一及び二はその一部)を所持し、

第三  法定の除外事由がないのに、同日ころ、同所において、火薬類であるけん銃用実包四八発(前橋地方検察庁に保管中の平成六年領第四三六号符号一、八、一〇ないし一二)を所持し、

第四  みだりに、同日ころ、栃木県足利市〈番地略〉所在の被告人が物置として使用する家屋内において、麻薬である塩酸ジアセチルモルヒネを含有する固形及び粉末約三八九・二二五グラム(前橋地方検察庁に保管中の平成六年領第四三五号符号二ないし四はその一部)を所持し、

第五  法定の除外事由がないのに、同日ころ、同所において、自動装填式けん銃一丁(前橋地方検察庁に保管中の平成六年領第二九五号符号二〇)及びこれに適合する火薬類であるけん銃用実包三四発(同符号二一及び二三)並びに回転弾倉式けん銃二丁(同符号二八及び三五)及びこれらに適合する火薬類であるけん銃用実包六九発(同符号二九、三一、三六、三八、四〇、四二、四六及び四八)を共に保管し、かつ、小銃一丁(同領第四七六号符号一)、火薬類であるけん銃用実包一五発(同領第二九五号符号五一)及びライフル銃用実包四八発(同領第四六四号符号三及び四)を所持し、

第六  営利の目的で、みだりに、同日ころ、群馬県新田郡〈番地略〉所在の義弟の経営する有限会社S工業桐生営業所工場内の物置内において、乾燥大麻約一三、五五五・六グラム(群馬県太田警察署に保管中の平成六年領第四一三号符号三三ないし三五はその一部)及び覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶粉末約七、八九六・七グラム(前橋地方検察庁に保管中の平成六年領第四一三号符号三一はその一部)を所持し、

第七  法定の除外事由がないのに、同日ころ、同所において、自動小銃一丁(前橋地方検察庁に保管中の平成六年領第四六四号符号九)を所持し、

第八  法定の除外事由がないのに、同年六月二二日ころ、前記第六の工場内において、自動小銃一〇丁(前橋地方検察庁に保管中の平成六年領第四六四号符号一二、一四、一六、一八、二一、二四、二七、三〇、三三及び三六)及びこれらに適合する火薬類であるライフル銃用実包九四〇発(群馬県太田警察署に保管中の平成六年領第四六四号符号四六、四九、五二、五五、五八、六一、六四、六七及び七〇)を共に保管したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(事実認定の補足説明)

一  弁護人は、判示第六の犯行の被告人の営利目的を争うので、以下に、当裁判所が営利目的の存在を認めた理由を補足して説明する。

二  前掲証拠によれば、〈1〉平成六年五月二六日午前八時三〇分ころから群馬県警察の捜査官が判示第六の被告人の義弟が経営する有限会社S工業桐生営業所工場の捜索を開始したところ、同工場内のスチール製物置内の棚に判示認定の乾燥大麻及び覚せい剤が隠匿保管してあるのを発見したものであるが、その保管状況は、乾燥大麻約一三キログラムをほぼ一キログラムずつ一三枚のシールチャック付きビニール袋に分けて入れ、そのうち一〇袋を段ボール箱内に入れてガムテープで封をし、二袋は黒色ビニール袋に包んで手提げバック内に入れ、残り一袋はそのまま別の手提げバック内に入れて、右物置内の上段の棚に並べて保管し、覚せい剤も同様にほぼ一キログラム弱に分けて八枚のビニール袋に入れた上、それぞれを包装紙に包んで段ボール箱内に入れ、ガムテープで封をして右物置内の下段の棚に置いて保管していたこと、〈2〉その乾燥大麻の入った手提げバックに並べて置いた手提げバック内には薬物の増量剤としても使用されるブドウ糖二箱や小分けした薬物を入れるのにも使用されるビニールの小袋三枚等が入っており、また、被告人の内妻方からは、覚せい剤を小分けする際に使用できる計量秤や自己使用に使うには不必要に多量の注射筒、注射針が発見されていること、〈3〉右の乾燥大麻や覚せい剤の入手状況をみると、被告人が、中学校卒業後間もなくやくざ組織に入り、平成三年春ころから甲山会乙川一家丙野組組長代行の地位にあって、自らO組を名乗り一家を構えていたところ、同四年二、三月ころ被告人の属する組織として密輸入した自動小銃等が粗末な品物であったことから、被告人が相手方と直談判をして、相手方から謝罪として乾燥大麻約二五〇キログラム(約一キログラム入りビニール袋を一〇袋詰めた段ボール箱合計二五個)が被告人の組織の下に届けられ、同年三月ころ、被告人が、そのうちから段ボール箱二個を届けさせて、その中から七袋をこれを保管していた者らに分け与え、同人らが換金して組への上納金の支払いや小遣いに充てられるよう取り計らい、残り一三袋の乾燥大麻を被告人が方々に隠匿した後、平成五年九月ころ前記〈1〉の義弟の工場の土間に穴を掘って自動小銃やけん銃と共に土中に隠匿し、平成六年一月中旬ころ、被告人が、そこからけん銃等を入れたアタッシュケースを掘り出した際、そのアタッシュケースの表面が湿気でひどく濡れていたことから、乾燥大麻も湿気により駄目になってしまうのではないかと心配して、機会を見つけ、同年三月中旬ころこれを掘り出し、前記〈1〉のとおり同工場内のスチール製物置内の棚に置いて保管し、その後取りに行く予定でいたものであり、一方、覚せい剤は、被告人が、義理のある親分から同年五月三日ころ返して貰って、情を知らない内妻に指示し、前記〈1〉のとおり義弟の工場内のスチール製物置内の棚に一時置いて保管していたものであるが、被告人が親分に貸した覚せい剤というのは、平成四年五月ころ被告人が交渉等を担当して中国から覚せい剤約一〇〇キログラム(約一キログラム入りのビニール袋を一〇袋詰めた手提げバック一〇個)を密輸入し、同月下旬ころ、そのうちから手提げバック一個を届けさせ、その中の覚せい剤を方々に分散して隠したり人に預けたりするうち、その中から二袋を配下の者に抜き取られて売却処分されてしまい、その残り八袋(約八キログラム)を被告人が所持していたものであることが認められる。

右認定にかかる本件乾燥大麻及び覚せい剤の所持量の大量さ及び保管状況、その入手経緯等(乾燥大麻の一部は組員に換金させて利を得られるように取り計らってやり、また、覚せい剤の一部も元配下の者が被告人に無断にせよ密売して利を得ている。)からすれば、それらの所持について、被告人に営利目的があったことを優に推認することができる。

三  しかるに、弁護人は、「被告人は、当初、右の乾燥大麻や覚せい剤を含むその他の麻薬類並びに銃器等をやくざ組織の一員として組織のために所持していたところ、被告人が、一方的に組織から離脱したことから、組織の者からの嫌がらせが懸念され、そのようなことがあれば被告人がこれらを警察に提出して入手経路等を暴露し、組織に対する警察の捜査が開始されることを組織側に認識させることによって、組織の者から意地悪をされないように牽制する、いわば保険目的で所持するようになったものである。被告人は、脱退後二、三年しても意地悪をされなければ、これらを組織へ返還する心づもりでいたところ、その後、組織側から被告人に対して、地元からの立退き要求と右の乾燥大麻等の返還要求があり、被告人側の車両が壊される事態が発生し、被告人が接触を持った警察官から組織の者は警察が逮捕するとの説明があったことから、そうなれば保険目的も消滅するので、被告人は、その時点で右の乾燥大麻等を警察に提出することを約束して、これを所持し続けていたものである。」旨主張して営利性を争っている。

しかし、被告人の供述によれば、本件の乾燥大麻及び覚せい剤は、いわゆるやくざ組織が営利目的で密輸入したものであり、被告人はこれを当初組織のために所持していたのであるから、当初の被告人の所持が営利目的にあったことは明らかである。ところで、被告人は、その後の事態の変化によって、いわゆる保険目的で所持するようになり、その保険目的が消滅すれば、これらを警察に提出するつもりでいたのであり、現に平成六年一月二〇日に警察官にコカイン約二キログラムとけん銃一丁を提出している旨供述する。しかし、被告人が警察に組織の者の逮捕をまかせたというのであれば、重要な証拠となる本件大麻や覚せい剤等の全部を被告人が警察官に提出して更に積極的な捜査を求めてもよいところ、被告人は、これをせずに、その後本件が発覚するまでの四か月余の間これらを隠匿所持し続けていたのである。被告人の供述によれば、被告人が自由に処分できたのは右の警察に提出済みのコカインとけん銃であり、本件乾燥大麻等は組織の物であって被告人が自由に処分することはできなかったことからすると、前認定にかかる本件乾燥大麻等の入手経過等を合わせ考えれば、被告人が組織の者と話し合いがついた段階でこれらを返還して組織の者の密売に委ねたり、或いは、知人が金銭に窮したような場合には換金処分させたことも十分考えられるのであり、被告人の供述するいわゆる保険目的なるものの存在が、被告人が当初から有していた営利目的と矛盾しこれを消滅させるものではない。

なお、弁護人は、「本件乾燥大麻は、賞味期間を経過していて、臭いも強くなり、もう少しで発酵したり虫がわいてきそうな状態となっており、被告人が営利目的で所持していたのであれば、賞味期間内に売却処分していたと考えられることからすると、被告人に営利目的があったと認定するには合理的な疑いが残る」旨主張する。しかし、前認定のとおり、被告人は、本件乾燥大麻を義弟の工場内の土間に埋めて隠匿保管していたところ、そのままではしけって駄目になってしまうと心配し、機会を窺って、本件犯行が発覚する約二か月前に土中から掘り出し、あえて発覚する危険性の高い工場内の物置内の棚に置いて保管していたことからすれば、被告人がなお本件乾燥大麻に価値を認めていたことが明らかであり、本件乾燥大麻の劣化が被告人の営利目的を失わせたものとは認められない。

更に、弁護人は、「被告人が、本件覚せい剤を、ある機関から依頼された覚せい剤密輸入の資金づくりに利用しようとしたが、その密輸入の目的は、正義感に基づくものであり、その依頼がなければ警察へ提出されていたことからすれば、これをもって営利目的とするにはなじまない。」旨主張する。しかし、弁護人の言う被告人の正義感に基づく行動がどの程度に現実的であるのか極めて疑わしいばかりでなく、そもそも営利性は当該所持にかかる覚せい剤についてみるべきものであることからすれば、弁護人のこの主張も失当である。

以上の次第で、被告人の営利目的の存在を認定したものである。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は覚せい剤取締法四一条の三第一項一号、一九条に、判示第二の所為のうち大麻草の所持の点は大麻取締法二四条の二第一項に、覚せい剤の所持の点は覚せい剤取締法四一条の二第一項に、判示第三の所為は火薬類取締法五九条二号、二一条に、判示第四の所為は麻薬及び向精神薬取締法六四条の二第一項、一二条一項に、判示第五の所為のうちけん銃及び小銃の保管の点は包括して銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第二項・一項、三条一項に、実包保管の点は火薬類取締法五九条二号、二一条に、判示第六の所為のうち乾燥大麻の営利目的所持の点は大麻取締法二四条の二第二項・一項に、覚せい剤の営利目的所持の点は覚せい剤取締法四一条の二第二項・一項に、判示第七の所為は銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一項、三条一項に、判示第八の所為のうち自動小銃の保管の点は包括して銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第二項・一項、三条一項に、実包の保管の点は火薬類取締法五九条二号、二一条にそれぞれ該当するところ、判示第二、第五、第六及び第八の各所為はいずれも一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、それぞれ刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として判示第二及び第六につき重い覚せい剤取締法違反の罪の刑で、判示第五及び第八につき重い銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪の刑でそれぞれ処断することとし、判示第三について所定刑中懲役刑を、判示第六について情状により所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第八の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期及び所定の金額の範囲内で被告人を懲役二〇年及び罰金五〇万円に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一五〇日を右懲役刑に算入し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、前橋地方検察庁に保管中の自動式けん銃一丁(前橋地方検察庁平成六年領第二九五号符号二〇)、同回転式けん銃二丁(同領号符号二八及び三五)、同小銃一丁(同領第四七六号符号一)及び同けん銃用実包一一八発(うち二五発は分解又は試射済み、同領第二九五号符号二一、二三、二九、三一、三六、三八、四〇、四二、四六、四八及び五一)は判示第五の、同自動小銃一丁(同領第四六四号符号九)は判示第七の、同自動小銃一〇丁(同領号符号一二、一四、一六、一八、二一、二四、二七、三〇、三三及び三六)は判示第八の、同けん銃用実包四八発(うち五発は分解又は試射済み、同領第四三六号符号一、八、一〇ないし一二)は判示第三の、群馬県太田警察署に保管中のライフル銃用実包四八発(うち一二発は分解又は試射済み、前橋地方検察庁平成六年領第四六四号符号三及び四)は判示第五の、同ライフル銃用実包九四〇発(うち四九発は分解又は試射済み、同領号符号四六、四九、五二、五五、五八、六一、六四、六七及び七〇)は判示第八の各犯罪行為を組成した物で、いずれも犯人以外の者の所有に属さないので、刑法一九条一項一号、二項本文を適用し、前橋地方検察庁に保管中の覚せい剤粉末八袋(同領第四一三号符号三一)は判示第六の、同覚せい剤粉末若干量(同領第四四五号符号一及び二)は判示第二の各覚せい剤取締法違反の罪にかかる覚せい剤で犯人の所持するものであるから、覚せい剤取締法四一条の八第一項本文により、前橋地方検察庁に保管中の塩酸ジアセチルモルヒネ一三袋(同領第四三五号符号二ないし四)は判示第四の麻薬及び向精神薬取締法違反の罪にかかる麻薬で犯人の所持するものであるから、麻薬及び向精神薬取締法六九条の三第一項本文により、前橋地方検察庁に保管中の大麻草一袋(同領第四四三号符号四)は判示第二の、群馬県太田警察署に保管中の乾燥大麻一三個(前橋地方検察庁平成六年領第四一三号符号三三ないし三五号)は判示第六の各大麻取締法違反の罪にかかる大麻で犯人の所持するものであるから、大麻取締法二四条の五第一項本文により、これらを没収することとする。

(量刑理由)

本件は、元暴力団組長による営利目的での大量の覚せい剤及び大麻の所持並びに多量の自動小銃等の武器の隠匿保管等の事案である。

覚せい剤や大麻等の薬物は、暴力団の不法な収入源となっており、その薬害によって使用者の心身が蝕まれるばかりか、その使用による幻覚症状下に凶悪犯罪を惹起し、或いは、薬物購入資金欲しさから財産犯に及ぶ者がでていることなどから、これが現在重大な社会問題となっており、薬物事犯の撲滅が強く要請されている。然るに、被告人は、暴力団の組長であって、その上部組織においても幹部の地位にあり、薬物或いは銃器等の密輸入に深くかかわっていたことから、本件の多量の覚せい剤及び大麻を営利目的で所持するに至ったものである。本件起訴にかかる被告人が営利目的で所持していた覚せい剤は約七・九キログラム、大麻は約一三キログラムとそれぞれに極めて大量であり、これらが密売に供されていたら、薬物の乱用者が増大し、これに起因する凶悪犯罪が発生したり、巨額の利益が暴力団等に流れて不法な活動資金となったであろうことが十分考えられる。そのほか、被告人は、自ら覚せい剤を使用し、覚せい剤約〇・五グラム、大麻草約一・三グラム及び通称ヘロイン約三九〇グラムを所持していたのであり、被告人には、覚せい剤所持の前科があることを考えあわせると、本件薬物事犯の被告人の刑事責任は誠に重いと言わざるを得ない。

加えて、被告人は、内妻方でけん銃用実包四八発を、実家の隣の物置にけん銃三丁とこれらに適合するけん銃用実包一〇三発並びに小銃一丁、けん銃用実包一五発及びライフル銃用実包四八発を、義弟の前記工場内に自動小銃一一丁とそのうち一〇丁に適合するライフル銃用実包九四〇発を分散保管して隠匿所持していたのである。その所持にかかる銃器・実包の数は実に多い。けん銃三丁はいずれも極めて高度の殺傷能力を有するところ、これらの弾倉にはそれぞれ実包が込められていた。また、自動小銃一一丁は米、中、旧ソの軍用兵器であり、それらにも適合弾倉と実包が添えられており、ほかに旧日本軍用の小銃一丁もある。これらを被告人が暴力団幹部であるが故に入手して保管していたとみられることからすると、ひとたび暴力団間の抗争が勃発すれば、これらが直ちに使用されていたことも十分考えられる。被告人は、その後暴力団から離脱したとはいえ、これらを返還或いは処分することなく、前示のとおり隠匿保管しており、ことにけん銃三丁は適合実包一〇三発と共にアタッシュケース内に入れて、いつでも使用できるような状態で被告人の実家の隣の物置内に置いていたのである。近年、けん銃等の不法所持事犯やこれを使用した凶悪犯罪が多発して大きな社会問題となり、これに対処するために、けん銃等の不法所持罪の加重類型である加重所持罪等が新設された銃刀法等の一部を改正する法律が施行されて久しいのであるが、その後も銃器を使用した犯罪が頻発しており、この種犯罪に対しては厳しい対処が強く要請される社会情勢となっている。その現状からすれば、本件のように多量のけん銃及び自動小銃等を大量の適合実包と共に保管していた被告人の刑事責任は極めて重大である。

被告人は、本件薬物や銃器を警察に提出するつもりであったと供述するが、暴力団等による薬物等事犯の根絶のために不可欠な本件の薬物や銃器等の入手先や密売ルートなどについて秘匿し続けている。

被告人は、これまで長く暴力団の組織に身をおいており、同種前科を含む暴力団員特有の粗暴犯前科八犯がある。

そうすると、被告人は、現在では自己の組を解散して、暴力団組織から離脱しており、本件の薬物や銃器等は自己の身を守るために所持していたものであって、自ら積極的に薬物を売却して利益を得たり、或いは、銃器を使用する意図などはなかったこと、判示第八の多量の自動小銃等は、被告人が自ら捜査官に供述したものであること(この点は、土中に埋めて保管していたため、その湿気によって、捜査官が掘り出した時点で、既に自動小銃には錆が生じ、実包は雷管の感度低下等によりその多数が不発となっており、仮に被告人がこれらの存在を秘匿し続けたとしても、本件のその余の罪で服役して出所した時点ではそれぞれ使用不能となっていた恐れも強く、被告人の属していた組織の者からはこれらの返還を求められており、被告人は出所後にその対処を余儀なくされること、被告人は逮捕後一か月近く秘匿し続けていたことなどを考慮すると、被告人の申告をさほど斟酌できない。)、被告人には、正業について更生する決意を持っており、内妻及び幼い子供ら三人がいて、被告人の帰宅を待っていることなどを十分考慮しても、主文の刑に処することはやむを得ない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥林潔 裁判官 沼里豊滋 裁判官 藤原俊二)

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